動画サイト利用者の4割弱が自主制作系作品を視聴、洋楽の商業作品を上回る


 一般社団法人日本レコード協会(RIAJ)は8日、学識経験者らで構成される「動画サイトの利用実態調査検討委員会」がとりまとめた調査報告書を公表した。「YouTube」「ニコニコ動画」「GyaO!」などの動画共有・配信サイト(以下、動画サイト)の利用経験者が国民の約7割に上るとの推計結果を示し、「もはや社会インフラとしてユーザーに浸透している」と指摘する。

 また、利用者が動画サイトで視聴しているジャンルとしては音楽関連コンテンツの比率が高く、邦楽の商業作品が最も多かったが、個人などが趣味で制作している自主制作系の作品が4割近くに上り、洋楽の商業作品を上回ることもわかった。

検討会の座長を務めた東京大学教授の濱野保樹氏。動画サイトを利用したり、ダウンロードしているのは若年層の一部という従来の印象は覆され、動画サイトが「違法・合法にかかららず、音楽の流通インフラになっていることがわかった」とコメント調査を実施した株式会社三菱総合研究所の研究員である伊藤陽介氏。自主制作系の利用が上位に食い込んだことに対して「特筆すべき結果」と指摘した

動画サイト利用経験者は13~69歳人口の73.6%、推計6914万1000人

 調査は、全国の13~69歳を対象に郵送アンケートとウェブアンケートで行った。従来、こうした調査はウェブアンケートで行われることが多かったが、今回は調査の信頼性と妥当性を高めるために2種類の方法を併用した。

動画サイト利用者数などの推計結果

 郵送アンケート調査は、全国の13~69歳を対象に3月にファックスでプレ調査を実施(有効回答2767件)。さらに動画サイトの利用経験者および利用意向者を対象に、5月に郵送により本調査を実施した(有効回答1603件)。ウェブアンケート調査は、全国の13~69歳のインターネットユーザーを対象に5月に調査を実施(有効回答7767件)、さらに動画サイトの利用経験者を対象に同じく5月に本調査を実施した(有効回答2608件)。

 これらの結果から報告書では、日本の13~69歳人口の73.6%(6914万1000人)が動画サイト利用経験者(過去に一度でも動画サイトを利用したことがある人)と推計している。なお、最近1年間の利用経験者は67.5%(6341万1000人)。

10代の52.5%が「ほぼ毎日」利用、1日平均65分

 普段利用・視聴している動画サイトは、YouTubeが最も多く、ウェブ調査で98.1%、郵送調査で97.4%に上った。以下、ニコニコ動画(ウェブ50.8%、郵送32.7%)、GyaO!(ウェブ24.6%、郵送13.0%)、Dailymotion(ウェブ10.3%、郵送4.4%)、Veoh(ウェブ10.2%、郵送6.3%)などと続く。

 ウェブ調査の結果からは、年代が若くなるほど利用頻度が高い傾向が出た。「ほぼ毎日」との回答は、10代では52.2%と半数を超え、20代でも31.5%に上った。30代以上の各年代では10%台となっている。動画サイトを利用する日の1日あたりの平均利用時間も、全体では40分ほどだが、10代で65分、20代で49分と突出していた。

動画視聴時間の18.8%を、自主制作系作品が占める

 動画サイトで視聴している映像のジャンル(複数回答)では、商業的な「音楽関連映像(邦楽)」が最も多く、ウェブ調査で62.7%、郵送調査で71.5%。次いで「個人や映像クリエイター等が趣味で作曲・編集・制作したと思われる作品」(ウェブ38.3%、郵送38.0%)で、商業的な「音楽関連映像(洋楽)」(ウェブ37.0%、郵送32.1%)を上回った。

動画サイトで視聴している映像のジャンル

 このほかは「テレビ番組(日本のドラマ、ドキュメンタリー等)」(ウェブ28.8%、郵送33.7%)、「アニメ(邦画)」(ウェブ27.6%、郵送29.0%)、「映画(洋画)」(ウェブ17.1%、郵送9.3%)、「映画(邦画)」(ウェブ16.1%、郵送10.1%)など。

 また、ウェブ調査をもとに直近1カ月における視聴時間に占める割合を見ても、「音楽関連映像(邦楽)」が28.7%で最も長かったが、これに次いで「個人や映像クリエイター等が趣味で作曲・編集・制作したと思われる作品」が18.8%で2位。以下は「音楽関連映像(洋楽)」の12.5%、「アニメ(邦画)」の10.7%、「テレビ番組(日本のドラマ、ドキュメンタリー等)」の9.8%などが続く。

 なお、自主制作系としては、作者の完全オリジナルと考えられる作品のほか、作者オリジナルの映像と非オリジナルの楽曲を組み合わせた作品、逆にオリジナルの楽曲と非オリジナルの映像を組み合わせた作品なども含まれる。

動画サイト利用経験者の半数、推計3382万8000人がファイルダウンロード経験

 さらに報告書では、動画サイトからのファイルのダウンロードという行為について着目しているのが特徴だ。

動画サイトからのファイルダウンロード利用状況

 動画サイトからファイルをダウンロードできることを知っている人(動画ダウンロード認知者)が、日本の13~69歳の人口の54.1%(5078万人)存在するほか、過去に一度でも動画サイトからファイルを(無料)ダウンロードした経験がある人(動画ダウンロード利用経験者)が36.0%(3382万8000人)いると推計している。これは、動画サイト利用経験者の半数がダウンロード経験者であることを意味する。この3年間で約70%増加したという。なお、最近1年間におけるダウンロード経験者は28.3%(2658万9000人)だった。

 ダウンロード経験者に、その方法をたずねる設問(複数回答)では、「無料のソフトウェアをインストール」が最も多く、ウェブ調査で69.3%、郵送調査で58.5%だった。以下は、「インターネット上の専用サイトにアクセスしてダウンロード」(ウェブ39.3%、郵送47.6%)、「よくわからない」(ウェブ4.9%、郵送8.2%)、「有料のソフトウェアをインストール」(ウェブ4.1%、郵送4.2%)など。

 ダウンロードする理由(複数回答)は、「自分の端末(PC/携帯電話)や、デジタル・オーディオ・プレイヤーでいつでも好きな時に視聴したい」(ウェブ58.1%、郵送68.8%)や、「好きなアーティストの楽曲や映像を自分の手元に保存しておきたい」(ウェブ55.5%、郵送53.3%)が圧倒的に多いが、「CD・音楽DVDの価格が高い」(ウェブ22.9%、郵送24.9%)、「そもそも入手困難(販売されていない、公式サイトで公開されていない、など)」(ウェブ20.8%、郵送13.1%)、「音楽配信の価格が高い」(ウェブ16.3%、郵送10.5%)といった、既存の音楽商材に関するアフォーダビリティ(市場価格)・アクセシビリティ(入手困難など)の課題が顕在化していると指摘している。
 
 ウェブ調査結果から、ダウンロード利用経験者における直近1年間のダウンロード率を算出したところ、最も率が高かったのは「音楽関連映像(邦楽)」で60.9%。また、ダウンロード利用経験者1人あたり年間63.4ファイルをダウンロードしていたという。次いで「音楽関連映像(洋楽)」が39.2%、1人あたり年間53.4ファイル、「個人や映像クリエイター等が趣味で作曲・編集・制作したと思われる作品」が34.6%、年間63.1ファイル。「アニメ(邦画)」はこれに続いて23.7%だが、1人あたりでは73.7ファイルに上っている。

 調査ではこのほか、商業的な音楽関連映像(邦楽・洋楽)のダウンロード経験者に対して、ダウンロードしたファイルに占める公式動画の割合もアンケート。それから逆算することで、公式提供されたもの以外の「違法ダウンロードと想定されるファイル」が50~80%を占めると見積もっている。ファイル数に換算すると、年間12億ファイルになるとの推計だ。


年間ダウンロード率/ファイル数違法ダウンロードファイル数の算出式

動画サイトの利用による音楽支出への影響、音楽にお金をかけない層で顕著

 報告書ではこのほか、動画サイトの利用によって、音楽に関する購買行動がどう変化したか聞いた結果も報告。音楽に接する機会や楽曲・アーティストへの関心の増減などの面で総じてプラス効果が出た一方、CDやDVD、有料配信など音楽支出の増減の面では総じてマイナスの効果が出ているとした。

 さらに音楽支出の多寡によるセグメント分けによる集計も実施。動画サイトを利用するようになったことで特に支出が減少しているセグメントは「視聴したいものがあれば、なるべくお金をかけない方法で入手」する層(構成比28%)であることを指摘。一方、「視聴したいものがあれば、ある程度お金をかけて商品を入手」している層(構成比40%)と、「視聴したいものがあれば、ある程度お金をかけて商品をレンタル」している層(構成比23%)では、それぞれ購入・レンタル支出への影響(減少割合)は比較的小さいとしている。ただし、いずれのセグメントにおいても有料音楽配信の支出の減少は比較的大きかった。

動画サイト利用による購買行動などの変化音楽支出別セグメント別で見た購買行動の変化

 報告書では、動画サイトの浸透はもはや不可逆的な現象であるとした上で、音楽業界・インターネット業界に対して、「消費者に対して従来とは異なる新たな付加価値を提供できるサービスや商品の在り方を模索していくことが、音楽のクリエイティビティを最大化させ、それを消費者に還元していくための生態系を維持・進化させていくステップにつながる」と訴えている。

 なお、報告書はRIAJのサイトからPDFファイルでダウンロードできる。


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(永沢 茂)

2011/8/8 19:00